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辻 晋六
  
辻 晋六のことば
やきもの
 古来陶器には、その部分の事を人に例えて、首・肩・胴・耳・口・手・腰などと言い、膚などと言います。地肌を皮膚と考えれば形の方は体格・上薬は着物又その模様は柄行と思えば、人間がそのまま出来上がります。恋の相手を選ぶ気持ちで陶器を見ると、人それぞれ好みが違うのは当然ですが、相手の気持ち・考え方・性質までは、なかなか理解し難いものです。大量生産の製品は別ですが、一つ一つ作者の手で作られた陶器には必ずその意図や性格・人柄が秘められています。
 昔は陶器を作る人の心構えを教えて「1焼・2土・3細工」と言いました。火の洗礼を受けた良い焼き上がりの自然の美しさを一番大切な事とし、次に材料の土や釉薬の良さを求め、人為的な細工は末梢の事と考え、大いに匠気を戒めると同時に、材料が持つ自然の美しさを充分に生かせるように努力しました。無釉の南蛮や備前焼も形と焼き上がりの美しさだけで、充分楽しめるのもこの理由からです。こう言うと、それなら陶器には絵や模様は要らないのかと反論されそうですが、決してそうではありません。ただ絵とか模様は第二義的な従的なもので、つまりあくまでも主である材料美を強調する効果のある場合のみ有効だと言うことです。
 九谷焼の土石は不純物が多くて焼き上がりが綺麗ではなく、又焼成中にキズが出やすいので、上絵をして素地の悪さをカヴァーするようになりました。大皿のキズを被う為に、田の畦道を図案化した奇抜な上絵を見た事があります。着物の図案や紙に描く絵と違い立体である為に、その模様のつけ方はぜんぜん違った方向に進んでいます。器を横から、又逆さにして絵付けをしますから、まともに置くとどうして描いたのか、また削ったのか判らないものがあります。人間国宝の陶工がこんな名言を残しました。「一本の線を画くなら、何処を切っても血が出るような線を引け」と。若しこんな線なら一本でも充分鑑賞に堪える美しいものでしょう。 
 陶器を人間に例えると、窯から出た時は幼年時代であり、つまり後半生はこれを使用する人が育てるのです。共に生まれても、ひとつは良家の子となり、愛撫に養育されて立派な名品ともなり、他は心なき人に渡り乱暴に扱われて瞬時にして破壊し一生を終わることになります。
 時々他所で20数年前の拙作に会う機会があり驚く事があります。釉はシットリと滋潤に、素地土は寂びて手馴れて、これが我が作かと疑う位です。まして百年、2百年、否数百年を経た陶器の美しさは、今窯出しのウブでイライラした物と比較にならないでしょう。
 「氏より育ち」という言葉もあり、ご自分で選ばれた陶器はどうぞ、可愛がって育てて下さい。

初代のペリカン急須です
辻 晋六の作品 辻 晋六の作品

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